オオスギ ナツナの小説ブログ

小説を書いています。夢に向かって頑張っている全ての方へ届いてくだされば幸いです。

「ゴールドラッシュ」続き21

  終幕  〜開封された手紙〜


  今日も夏の延長戦のような暑い九月だった。

  怒涛の記者会見から一ヶ月経っていた。

  やはりすぐに仕事というわけにはいかず、梢は事務所から電話が入るまでは基本自宅待機だった。

  シャワーを浴びた梢は、暑さで髪は自然に乾くだろうとそのままパソコンに向かい、自分への世間の声を検索した。梢はネットでの意見は悪戯もあり全てが本音とは思っていないが、梢への世間の反応は冷ややかなものだった。

「刑務所から出てきて復帰するなんてありえない。」

「テレビに出ないでほしい。」

「もうテレビは見ません。」

「もう年なんだから、無理じゃない?」

「保釈金いくら払ったの?」

「以前のオーラなくなったね。」

「痛々しい。」

  梢は自分が置かれている状況や世間の批判も全て覚悟だったが、顔や名前も知らないネットなどの不特定多数の意見が胸に熱い火箸をあてられたようで痛みが走った。

  それでも梢は女優の自分を見たかった。演じている間は全て辛いことを忘れられた。

  よーいスタートのカチンコがなる前の氷がピンと張ったような静寂、なった瞬間に現実とは違う空間にいるような感覚が好きで、言葉では言い表せない梢の独特な感性だった。

  徳島の優弦からラインが届いていた。

「もしもし、梢?」

「うん、久しぶりだね。元気?」

「俺は元気だよ。記者会見見たよ。」

「うん。」

「もう、気持ちは固まってるんだな。」

「うん。私はこの仕事好きだからしょうがないよね。」

  梢は嬉しそうに微笑んだ。

「元気そうでよかったよ。夏バテでもしてないかって心配したよ。女って、やっぱり強いな。」

「そうだね。もう私、人からなんて言われてもいいの。好きか嫌いか、やりたいかやりたくないかだけなのよ。人から承認されたいという欲求で自分を見失うのは嫌なのよ。」

「そうだな。まあ、俺はテレビを観てしか応援できないけどな。」

  支配人や昔梢が女医の役を務めた映画の共演者やスタッフ達からも、メールで励ましの言葉がいくつか届いていた。

  梢が主演を務めた映画から、約十年と数ヶ月が経っていた。

 

  一月中旬

  新年を迎え正月も梢は雫と耀と一緒に家でのんびりと過ごした。

  記者会見から五ヶ月経ち新年を迎えた梢に、まだ仕事はなかった。

  ある日、自宅待機の梢に主演舞台の話が舞い込んできた。

  主役である専業主婦の梢が、夫の浮気に狂乱して殺害してしまう役だった。梢も、主婦役がくるのは当たり前の年齢になっていた。

  梢が事務所へ行くと、そこには脚本家と事務所の社長とマネージャーが待っていた。

  マネージャーから渡された台本を読むと、梢のために書かれたものだというのが手にとるようにわかった。

「これ、自分に似ている気がします。」

「俺がお願いしたんだ。お前主役で脚本を書いてくれって頼んだんだ。」

  社長が言った。

「記者会見見てすぐ書いたよ。急ぎって言われたからさあ。」

  笑いをかみ殺すように脚本家が言った。

「そうなんですか?」

「社長に頼まれたんだ、絶対君を復帰させないからって。社長とは、お互い二十代の頃からの付き合いなんだよ。」

「そうだったんですか!」

「舞台は初めてだっけ?」

「初めてですが頑張ります。」

「じゃあ、受けてくれる?」

「はい、 喜んでやらせていただきます。」

「よかった!」

「ありがとうございます。」

「稽古は二ヶ月あるから体力つけといてね。」

「はい。」

「舞台はナマモノだから、リアルでお客さんの反応がわかるから面白いと思うよ。同じ台詞や動きをしていても、毎回自分の感覚もお客さんの反応も全く違うから。それが映像とは違う舞台の醍醐味だよ。舞台は昨日なかったアドリブをバンバン入れてくる役者もいるからね。お客さんと一体感を感じ、共有するんだよ。全てが貴重な時間だよね。だから、中途半端なものは見せたくないから稽古はきついけど、頑張ってついてきてほしい。絶対勉強になるから。」

「はい、頑張ります。こちらこそよろしくお願いします。」

  梢は感謝で胸がいっぱいになった。

  稽古は一ヶ月後に始まり、舞台の幕開けは三月十二日で二週間公演だった。

 

  稽古初日

  今にも雪が降り出しそうな寒々とした空だった。

  稽古初日は顔合わせだった。監督やスタッフ達、共演者がそれぞれ自己紹介し舞台に対する意気込みなどを話す日だ。

  今回の公演はお客さんが千人以上入る大劇場なので、顔合わせはスタッフ達も含め大勢の人がいた。

 「おはようございます。主役を務めさせていただきます吉川梢です。舞台は初めてですが精一杯頑張ります。よろしくお願いします。」

  梢は事件のことには触れなかった。

  みんなが梢を値踏みするような目つきでしげしげと見た。

  舞台の本読みが終わり立ち稽古が始まると、待ってましたと言わんばかりに梢への共演者の嫌がらせが始まった。

  ある日、梢が稽古場の近くの駐車場にとめた車から降りマネージャーと歩いていると、後方から来た黒塗りのベンツが梢達の斜め前にとまった。

  「人殺しが女優やってんじゃないわよ!」

  窓が開き、ファンデーションを塗りながら共演者の女優が一方的に言い放った。梢をチラッと見てそのまま車は走り去っていった。

  梢はこれくらいのことには動じなかった。まだこれだけでは終わらないというのが、なんとなく梢にはわかっていた。それよりも、あと一週間で通し稽古に入るプレッシャーと年齢を重ねたせいか、自分の台詞覚えが悪くなっていることに焦りを感じていた。

  梢は持っていたホッカイロを自分の頰にあてて温めた。

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